かわむら こども クリニック NEWS  平成22年 8月号


児童虐待を考える!2

 7月28日に厚生労働省が発表した統計によると、全国205カ所の児童相談所が09年度に児童虐待として対応したケースは44,210件と前年より1546件増え、過去最多となっていました。また、同じ厚労省の統計ですが、08年度に虐待死が疑われるのは64件(67人)もありました。あくまでもこれはひとつの統計で、NPOがまとめたデーターでは年に200人以上の子ども達が亡くなっているとの推測もあります。マスコミでも悲劇的な虐待のケースが報道されたのを合わせて、また虐待について考えたいと思います。
 ご存知とは思いますが、大阪のマンションで「異臭がする」という通報で駆けつけた警察官が、3歳と1歳のきょうだいの白骨化した遺体を発見したというものです。あくまでもマスコミで報道されたもので、必ずしも信実ではないかも知れませんが、簡単に説明をします。母親は風俗店勤務で、1年前に離婚し、働きながら子育てをしていたようです。ブログには、子どもに対する愛情表現があり、ある時期までは普通に子育てをしていたと思われます。今年の3月以降子ども達の泣き声に気づいたマンション住民から虐待ホットラインに3回通報し、大阪市子ども相談センター(児童相談所)は5回も家庭訪問していました。しかし、子ども達の安否が確認できないまま、悲劇が起こってしまいました。その後の情報によると、きょうだいは6月ごろに亡くなっていたものと推測されています。今回のケースは虐待のうちでも、ネグレクト(詳細はH19.12月号)と呼ばれるものです。子ども達がどんな思いで、亡くなっていったかと思うと涙をこらえ切れません。子ども達には何の罪は無く、親を頼りに生きるしか術はありません。その親に見放され、空腹のまま、じりじりと死を迎えたと思うと、本当に悲劇的な事件です。理由は詳しくは述べませんが、あまりにも身勝手な言い分には、憤りさえ覚えました。
 平成20年4月に改正された児童虐待防止法では、児童相談所の権限を強くし強制立ち入り調査が可能になりました。しかし、今回のケースでは強制立ち入りがされないまま、子ども達が亡くなってしまいました。強制立ち入りは、法律用語では“臨検又は捜索”と呼ばれ、“(一部略)児童虐待が行われている疑いがあるときは、児童の安全の確認を行い又はその安全を確保するため、児童の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、児童相談所の職員等に児童の住所若しくは居所に臨検させ、又は児童を捜索させることができるものとすること。”と定義されています。しかし現実には、裁判所が関与するため様々な手続きが必要となり、強制立ち入りのケースは極めてすくなく昨年はわずか1件だけでした。
 マスコミでは児童相談所や行政の対応に問題は無かったのかが、いつも問題になります。7月13日に宮城野区の乳幼児健診担当者懇談会が開催され、その場でも児童虐待が話題になりました。我々の知らないところで虐待の対策が行われ、仙台市要保護児童対策地域協議会が設立され、「子育て支援にかかわる機関連携が向上することで、学齢期前(新生児・乳児期・幼児期)など早期の段階での児童虐待の発見が増える」という取組みがなされています。
 では、どうすれば虐待を防ぐことや減らすことができるのでしょうか。これは本当に難しいことで、簡単なことではありません。児童相談所や行政の対応を非難することは簡単ですが、それで解決するものではありません。我々小児科医の大きな目的は、やはり早期発見に尽きます。早めに発見して、児童相談所につなぐことが重要な役割です。但し、虐待の場合には、医療ネグレクトもあり、医療機関を受診しないため早期発見が難しいことになります。もうひとつの役割は、子育ての不安・心配の解消に力を貸すということです。統計上でも明らかですが、とくに母親の場合には、“子育ての不安や心配”が方向性を変えて虐待につながると言われています。虐待で死亡することや障害を残すことは、病気と同じように考えなければなりません。病気であれば、予防することが最も重要であることには疑う余地がありません。記事を書いてきて2年前12月のことが思い出されます。その後の新聞でも紹介しましたが、死亡した日例4の赤ちゃんをお母さんが抱っこして連れてきました。このケースは病気と扱われましたが、実態は虐待なのでしょう。親子共々のことを考えると、なんとか防げなかったのかと、予防の重要性を教えてくれた赤ちゃんでした。
 さて皆さんは、何をしたらいいのでしょうか。まず大事なことは、いい機会ですから虐待について考えてみてください。虐待を見逃さないように、疑いがある場合には児童相談所に通告(通報)することも大切なことであることを覚えておいてください。そして、自分が虐待をしそうになったら、誰かに救いを求めることです。話すだけでも気が楽になります。子どもに対する自分の対応が気になったら、お友達やクリニックにでも気軽に相談してみましょう。

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