かわむら こども クリニック NEWS  平成16年 3月号


もう一度、鳥インフルエンザ

  先月号にも簡単に書きましたが、鳥インフルエンザが大きな問題になっています。この問題について、もう少し考えてみましょう。
 今回の鳥インフルエンザの始まりは1月12日に山口県の養鶏所で、国内では1925年以来79年ぶりの発生ということで大きな話題となりました。その後、大分県では飼育していたチャボからも検出され、2月29日には京都の養鶏場でも発生が確認されました。
 鳥類が感染するインフルエンザは「鳥インフルエンザ」と呼ばれ、このうち死亡するようなものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼びます。すべての鳥が感染するものではなく、鶏、アヒル等が感染すると全身症状をおこし死亡する病気です。伝染性が強く、一つの養鶏場が全滅するということも希ではありません。このウイルスは、A型インフルエンザウイルスの中に含まれますが、人のインフルエンザウイルスとは異なります。今回のウイルスはH5N1と確認され、日本での発生の前には中国や韓国、東南アジアで流行していたものと同じです。日本への伝播の経路は明らかではありませんが、渡り鳥によって運ばれると考えられています。
  従来は人に感染しないと考えられていましたが、1997年と2003年に香港で鳥インフルエンザの感染が確認され死亡者が出ています。人から人への感染はなく、その後の感染の拡大はありませんでした。しかし、今年になってベトナムやタイで人への感染が見られ、人から人への感染も明らかになっています。一般的には、鳥と濃厚な接触(近距離での接触や内蔵や排泄物への接触)が無ければ、伝染しないと考えられています。現在のところ、日本での人への感染はありません。
 鳥の死亡率が高いという点が、一つの問題です。近隣への感染の拡大、鶏肉や卵の供給だけでなく経済への大きな影響も懸念されます。また、人への感染も大きな問題です。人に感染した場合は高い死亡率の病気です。もう一つの医学的な問題は、新型インフルエンザの発生です。鳥インフルエンザウイルスと人のウイルスが、豚などの宿主に同時に存在すると、遺伝子に組み換えが起こり人への伝染性が強い新型のインフルエンザウイルスが生まれる可能性があります。また人に両ウイルスが同時に感染すると、これも同じように新型ウイルスが出現する可能性があります。この新型ウイルスが出現して流行すると、 SARSなどには比べられないほどの大きな被害が出ると考えられています。新型ウイルスに対する免疫を持たないため、日本で流行した場合には3〜4万人の犠牲者が出ると予想されています。このような大きな問題を引き起こす可能性があるため、徹底した対策が必要になるのです。 ペットとして飼っている鳥類のことも心配になりますが、鳥インフルエンザが出現したからと言って直ちに危険になるものではありません。触れた後の手洗いや排泄物の始末など、動物を飼う場合の基本はしっかり守ることが大切です。もう一つ心配なことは、鶏肉や卵から感染するかということでしょう。食品として販売されている鶏肉などを食べて感染することはないとされています。また我が国では、法定伝染病として位置づけられており、発生した場合は拡大を防ぐためにまん延防止措置が実施されることになります。したがって、感染鳥やその卵が食品として市場に出回ることは無いはずです。ウイルスは適切な加熱により死滅するとされており、WHOでは食品の中心温度を70℃に達するよう加熱することを推奨しています。
 症状は人のインフルエンザと同様で、死亡の原因は肺炎とされています。インフルエンザワクチンで予防は不可能ですが、現在使われている抗インフルエンザ薬が有効と言われています。診断も現在使われているインフルエンザの迅速検査で可能ですが、鳥か人かのウイルスの区別はできません。
 山口県での最初の発生の場合は、比較的迅速な対応により周囲への感染を食い止めることができました。しかし、京都府丹波町の「浅田農産船井農場」では、発生を隠ぺい(?)しただけでなく、その後鶏や鶏卵出荷まで行っていたという事実が明らかになりました。これは目先の問題だけを考えた対応で、隠してしまえばわからないという、自己保身的で許されるものではありません。それぞれの仕事には、国民に対して責任があります。我々小児科医は医療という責任を担っています。この会社でも国民の食に対する安全という責任を担っていたはずです。それぞれの立場における責任というものを、もう一度しっかり考えたいものです。

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