かわむら こども クリニック NEWS  平成11年11月号


インフルエンザを考える

 今年は、インフルエンザの予防接種に対する関心が高いので、インフルエンザについて考えてみます。毎年インフルエンザが流行すると老人ホームなどでの肺炎が問題にされます。その時決まってマスコミなどで報道されるのが、インフルエンザの予防接種です。
 皆さん御存知のことと思うので、症状については軽く触れるにとどめます。発熱と呼吸器症状が特徴で、高熱が続き、咳がひどく、年長児では咽喉の痛みや節々の痛みなどが特徴です。カゼの仲間と考えてもいいのですが、肺炎の合併率が高く重症化することがあります。毎年老人の肺炎と乳幼児の脳炎・脳症が大きな問題され、重症度や生命的予後を考えると単なるカゼとは違うと考えたほうがいいでしょう。
 治療に関しては、昨年からアマンタジンが用いられ、一定の効果を上げています。しかしA型にしか効果が無いことや、ウイルスの耐性化が起こりやすいなどの問題点があります。今年新しい吸入による治療薬が認可されようとしています。しかし認可が遅れる可能性や自分で吸入できる年齢しか使えないなど、成人や年長児では期待されていますが、乳幼児では実用的ではありません。
 脳炎とか脳症とは、いったいどんなものなのでしょうか。最近になって特に増えたということではなく以前からもあったもので、検査法の進歩にともない診断される例が多くなってきました。今年1〜3月では217人の脳炎・脳症がみられ、58人が死亡しています。頻度は明らかではではありませんが、数万人に1人程度と考えられています。発熱から比較的短い期間に発症し、けいれんや意識障害が出現し急速に悪化することが特徴的な症状です。乳幼児がほとんどで、全体の8割以上が5歳までに発症していることも特徴です。発熱してから症状が出るまで1〜2日と短いため、アマンタジンなどでも治療が追いつかないことがほとんどです。ひきつけたり意識がおかしいときは、速やかに受診することを勧めます。
 現時点では、対症療法以外の決定的な治療法が無いため、予防することが大切と考えられています。どうも、昔から言われているようなうがいや手洗いなどだけでは、予防効果は少ないと考えられています。では、ワクチンはどうなのでしょう。流行の予測をして、ワクチンを混合して作られています。ですから流行の予測が全く外れると、効果が無いことも確かです。しかし最近10年間はワクチンと流行したウイルスは一致し、比較的高い予防効果が認められています。こどもの予防に関するデーターはないのですが、成人での全体的な有効率は70〜90%と報告されています。インフルエンザ型によって有効率は変わり、A型に対しては80%前後で、B型は50%程度と言われています。副反応(副作用)はどうなのでしょうか。時々副作用が強いという話を聞きますが、現在使用されているものは世界的にみてもかなり安全です。最も多いのがワクチン接種部位の発赤、硬結、腫脹で10%程度にみられます。今年から内容が変更され、局所反応も少なくなると期待されています。また全身的な副反応は少なく、ウイルスの増殖に鶏卵を用いますが卵アレルギーの危険もほとんど無いとされています。中枢神経系の副反応例がわずかに報告されていますが、因果関係は明らかではありません。ワクチンの説明書(添付文書)に急性散在性脳脊髄膜炎と言う難しい病名が出てきます。中枢神経系の病気はワクチンに関係ない場合にもみられるだけでなく、他のワクチンでも報告されています。このような中枢神経系の副反応の頻度はかなり低く100万人に1例以下と推測されています。また一つ、重要な事実があります。ワクチン接種者には、脳炎や脳症の患者がいないということです(この時点では)。
 この記事の目的は、ワクチン接種を強制するものではありません。この機会に、もう一度インフルエンザという病気について考えてみましょう。
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