かわむら こども クリニック NEWS  平成26年8月号


熱中症の真実はどこに?

 毎年毎年、猛暑という言葉が飛び交い、熱中症が話題にあがり連日報道されます。マスコミの影響か、熱が出て来院するお母さんの中には、「熱中症ではないでしょうか」と心配する人も少なくありません。

 果たして子どもたちの真実はどこにあるのでしょうか。 まず熱中症の話を進める前に、統計的なデータを示しましょう。消防庁によると昨年夏(6〜9月)、熱中症により救急搬送された人は、5万8729人で、内訳をみると高齢者(65歳以上)が47.3%、成人が39.2%、少年が12.5%、乳幼児0.8%でした。また初診時の重症度では、軽症が62.7%、中等症33.6%、重症2.7%で、死亡は88人で0.1%でした。 ちょっと古いデータですが、2010年の熱中症による死亡者は1718人で、死亡者の年齢では65歳以上が79.3%、発生場所では家が45.6%、都道府県別では東京が272人と最も多かったのが特徴的でした。ところが、小児(15歳未満)の死亡は0〜4歳で1人だけでした。

 なぜわざわざ、熱中症の統計を示したのでしょうか。冒頭にも示したように、この季節熱が出ると何でも熱中症を心配してしまうからです。“自動車の中に放置され死亡”、“部活動中に救急搬送”などのニュースから、熱中症は子どもに多いと誤解されがちです。統計では、熱中症の大部分は大人で、乳幼児では極めて少ないということです。もちろん、安心できるものではありませんが、高齢者とは異なり特殊な環境以外の状況では滅多にないことを覚えておきましょう。

 理解をより深めるために、熱中症について少し学んでみましょう。熱中症は、「熱失神」、「熱けいれん」、「熱疲労」、「熱射病」に分類されています。「熱失神」とは、高温や直射日光により血管が広がり血圧が下がって、めまいや失神が起きる状態です。「熱けいれん」は多量の汗をかくことによって体内の塩分が失われ、血液中の塩分が低下し腹部や下肢の筋肉のけいれんなどがおこる状態です。名前から全身けいれんのように思われがちですが、いわゆるこむら返りや足をつるのが「熱けいれん」です。「熱失神」や「熱けいれん」で体温の上昇はありません。さらに進行した状態が「熱疲労」で、体内の水分と塩分が不足し脱水となり、めまい・頭痛・吐き気・倦怠感等の症状が見られるようになります。体温は少し上昇することもあります。さらに症状が進み体温の調節機能が異常をきたした状態が熱射病で、体温は上昇(39°C以上)し、意識障害・昏睡・全身けいれんが見られ、重症の場合には死亡することもあります。

  熱中症では何より予防が大切です。まず高温の環境を避けることです。この時期には、親が目を離したために車中で子どもが亡くなったという悲しい報道があります。これが熱射病の典型なのです。直射日光下の車の中は60°C以上にもなるため非常に危険です。短時間であればなどと考えずに、決して車には子どもを放置しないようにして下さい。 室内でも熱中症が起こることもあり、気温だけでなく湿度も大きく関係します。高湿度になると汗の蒸発が減り、体温のコントロールが難しくなります。老人は体温の調節機能が弱いため、容易に熱中症になりやすいと言われています。最も多い発生場所が“家”という事実から、環境を整えることは重要です。時々「赤ちゃんにエアコンは使っても大丈夫?」と聞かれますが、基本的には問題はありません。もちろん、冷え過ぎへの注意は必要で、タイマーを利用したり、直接風が当たらないなどの工夫をして、過ごしやすい環境を作ってあげましょう。

 もう一つの予防法は、水分の補給です。「水分をどれだけ与えればいいのかわからない」とも質問されます。乳児期では、お腹が空いてものどが渇いても、それを区別して訴えることができません。のどが渇けば、いつもより母乳やミルクを多く飲むだけのことです。ですから、嫌がるのを無理してまで与える必要はなく、飲みたくない赤ちゃんにとっては迷惑なことなのです。幼児期でも基本は同じで、無理矢理ではなくのどが渇けば飲みたいだけ与えるのが基本です。

 さて、水とイオン飲料のどちらがいいのかも、よく聞かれる質問です。小学校以降の激しい運動の場合は別ですが、通常の外遊び程度なら水やお茶だけで構いません。熱中症を心配するあまり、時々イオン飲料を1日1リットル以上飲んでいる子を見かけます。むしろ“百害あって一利無”で、甘い飲み物は甘さを求める習慣を作り、肥満や虫歯の原因になります。熱中症防止と水分補給に違いを明確にし、原則甘い飲み物は与えないということをしっかり覚えておきましょう。 万が一熱中症で熱がでるというのは、危険な兆候で入院が必要な状況です。

 このようなことは滅多に起きることではありませんが、熱中症を理解するとともに、むしろ放置による事故と捉えて事故防止の意識を高めましょう。


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