かわむら こども クリニック NEWS  平成21年 1月号


新しい年に向けて-2009- -悲しい出来事-

 毎年恒例ですが、新しい年に向けてと題して昨年を振り返ってみます。
 去年は経験したことの無い、初めての出来事が後半に集中して、悲しく辛い思いをした年でした。
 11月中旬に、4歳の女の子がズボンが濡れるほどのおりものを主訴に来院。どことなく、大人しい子という印象。診察したところ、膣の中からも黄色いおりものが流れているという状態。大腸菌の感染かと思い、培養検査に提出し抗生物質を処方し帰宅。数日後検査センターから結果の電話が。事務員が受けたが、直接先生に結果を伝えたいとのこと。忙しいのにと思いながら電話に。“何度も検査したのですが、間違いなく淋菌です”と。昨年も虐待の話を書きましたが、淋菌がでた場合のほとんどは性的虐待とのこと。紹介先の病院から事実は証明されなかったが性的虐待に間違いないとのことで。トラウマなのか、大人しい子どもの姿が、本当にかわいそうな事件でした。
 12月9日、かかりつけの患者さんから悲しい報告が。兄妹ふたりで仲良くかかっていた妹さんのこと。カゼ気味で薬を処方、とくに変わりなく経過。スタッフが電話を受け、1歳1ヶ月の妹さんが亡くなられたというもの。すぐさま、お母さんに電話を。詳細は、12月5日はいつもと変わりなく家族そろって夕食をとり、普通に寝ついた。2:00頃の母乳も変わりなし。4:00頃に布団から出ていた足の冷たさに気付く。布団を掛け直そうと思ったところで、全身が冷たくなっていて慌てて救急車を。病院に搬送後、死亡確認。病気や窒息などの所見も無く、原因不明。乳幼児突然死症候群(SIDS)と診断。電話でお母さんには、“SIDSは原因もわからず、防ぎようのない病気であること。もっと早く気がついたら等、自分を責めないこと。”等を、時間をかけて説明。突然わが子を失った親の心は複雑で、その心の穴を埋めることは不可能。翌日、そんなお母さんから、思いのこもった出せなくなった年賀状(写真入り)を頂く。“平成20年11月6日明け方に○○○は天に召されました。突然のことで、今家族は事実を受け止めてこれからどうするかこころの整理をやっと始めているところです。(略)かわむら先生、おいそがしい中わざわざ電話をくださってありがとうございました。今の私の苦悩を少しでも理解して下さる方がいるだけでとても救われる思いです。(略)そして○○○が、お腹の中にいる時から気づかって下さったスタッフの方々、先生、どうかずっと○○○を忘れないでいてあげて下さい。”。スタッフ一同、皆うるうるでした。思いのこもった年賀状に示された、本当に悲しい出来事でした。
 そんな思いもさめやらぬ12月11日朝9:30、看護婦の“先生!”という大きな声でまたしても思いもよらぬ事態へ。処置室に駆けつけてみると、バスタオルで全身をくるまれた赤ちゃんらしき患者さんが。お母さんと思われる若い女性が、震えながら受診。おもむろにバスタオルを外してみると、中には産まれたばかりの赤ちゃんが口と鼻から出血しているが冷たい姿で。心肺停止の状態で、全身チアノーゼ。よく観察してみると、死後硬直も。長年新生児医療に携わっていて死亡に数多く立ちあったが、まさかクリニックで立ちあうとは。経験が幸いしてか、慌てずにまず警察に連絡。若いお母さんには、ずっと看護婦がフォローを。警察が来て、診療は1時間以上もストップ。事情を聞くと、12月7日夜に、19歳の専門学校に通う未婚の女性が、ひとりでアパートの浴室で出産。赤ちゃんをシャワーでキレイにし、へその緒も自分で切断。産まれた時泣いたが、母親は出血で具合が悪化。友人の差し入れのミルクや母乳を。彼氏は2日目に来て、赤ちゃんを見ただけ。次第に赤ちゃんは泣かなくなり、前日には冷たくなり動かなくなって。朝鼻と口から出血、抱っこして来院。自宅で産んだ最大の理由は、“知られたくなかった”とこと。妊婦の救急車のたらい回しが問題になりましたが、このケースは別な意味で大きな問題です。人の命が、このようなことで失われるなんで、本当に残念で仕方ありません。若い母親一人を責めるつもりはありません。しかし、どうして、救急車を依頼しなかったのか不思議で仕方ありません。本人が呼ばなくても、友人や彼氏が対応できたはずです。親に話していたら、こんな悲劇は生まれなかったかもしれません。後で聞いた話では、厳格な父親だということでした。知られたくなかったという思いは、自分のためです。自分の思いのために、子どもを犠牲にすることなどは許されるものではありません。このような事態には、希薄になった家族関係や人間関係など、社会としての問題も潜んでいるかもしれません。二度とこのようなことが起きないように、我々大人として、また医師として考えていきたいと思いました。その後警察で詳しい事情とともに犯罪の立件について聞きました。幸い、保護責任者遺棄致死等の罪状ではなく、病死という扱いとのことでした。ひとりに罪をかぶせることではなく、若い母親を考えた判断で警察の温情を感じました。人の命の重さを考えさせる、本当にやり切れない辛い出来事でした。
 新年早々悲しく辛い話題で申し訳ありません。経済状況も暗い話題で持ちきりです。来年は楽しいことだけ書けば済むような、明るい一年になることを願っています。最後に亡くなられた子ども達のご冥福を祈りたいと思います。
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