かわむら こども クリニック NEWS  平成24年8月号


不活化ポリオワクチン接種開始

 9月から生ポリオワクチン(生ワクチン)が定期接種からはずれ、新たに不活化ポリオワクチン(不活化ワクチン)が定期接種になります。

 まず最初に、ポリオという病気を理解しておきましょう。ポリオは、5歳以下の罹患率が高い(90%以上)ことから小児マヒと呼ばれますが、成人も感染する可能性がある病気です。患者さんの便に排泄されたポリオウイルスが、口から入ることによって感染します。潜伏期間は1~2週間で、不顕性感染が90〜95%です。症状が出るのは約5%程度で、発熱、頭痛、倦怠感、嘔吐、下痢など、かぜ・胃腸炎に似た症状で始まります。典型的な麻痺型ポリオは感染者の0.1〜2%と頻度は少ないのですが、1~10日症状が続いたあと麻痺が起こります。重症例では横隔膜神経・延髄麻痺を生じて呼吸不全を起こし死亡することもあり、10〜20%で一生麻痺が残ります。残った麻痺に対する特別な治療は無く、ワクチンが唯一の予防策です。

 生ワクチンの副反応が、大きく取り上げられていますが、ワクチンの有効性については歴史的事実があります。1960(昭和35)年に、ポリオ患者数が6000人を超え、かつてない大流行となりました。その状況から不活化ポリオワクチンの製造を開始しましたが検定が不合格となり、旧ソ連とカナダから緊急的に生ワクチン輸入され接種が始まりました。生ワクチンにより患者数が1960年の6500人から1963年には100人と激減し、1980年の1例を最後に野生株(ワクチンによらない)ポリオの発症はありません。このような事実から、生ワクチンは、日本において多くの人の麻痺を防ぎ、命を救ったとともに、ポリオ根絶に多大な功績があったことを理解する必要があります。

 生ワクチンの有効性は明らかですが、ワクチンの弱毒化したウイルスによって、ポリオと同じ症状が希にみられることが明らかになり、野生株によるポリオ感染が無くなった地域・国では、より安全な不活化ワクチンへ切り替えられました。日本でも同様に、生ワクチンに由来する症状が問題になり、不活化ワクチンの導入を求める声が次第に大きくなりました。

 厚生労働省も、この問題を重要視し、不活化ワクチンの導入を急いだ結果、9月から定期接種として導入されることになりました。

 不活化ポリオワクチンの接種回数・年齢・方法を示しますが、3種混合(DPT)と同じです。
 ・初回接種(3回):生後3か月から12か月に3回(20日以上の間隔をおく)
 ・追加接種(1回):初回接種から12か月から18か月後(最低6か月後)に1回
 なお、上記期間を過ぎた場合でも、90か月(7歳半)に至るまでの間であれば接種可能です。生ポリオワクチンが未接種でも、対象年齢内であれば不活化ポリオワクチンの対象となります。

 生ワクチンと不活化ワクチンの切り替え時期なので、既になワクチンを1回受けた子どもさんでは、その1回分を不活化ワクチンの1回分として数えます。また、任意接種で不活化ワクチンを接種した場合も同様で、残りの分を接種することとなります。ただし9月以降でも、当面の間は4回目(追加接種)は、定期接種として認められません。なお、詳しい内容については図(院内掲示も)を参考にしてください。

 さて新しいワクチンとなると、供給量が心配です。厚労省の試算では平成24年度のワクチン需要量は約368万ドース(回分)となりますが、供給量は約477万ドースで、充分確保できる予定です。ただし、接種を見合わせていた人も多く、接種開始早期には充分な供給量が確保できない可能性もあることを理解してください。

 WHOではポリオ根絶を目指していますが、依然として海外(南西アジアやアフリカ諸国)では、ポリオが流行している地域があります。そのような状況では、海外で感染し、気がつかないまま帰国(あるいは入国)する可能性があります。感染源となる可能性もあるため、ワクチンの重要性は不活化ワクチンになっても何ら変わりはありません。

 最後に伝えたことは、現在日本には野生のポリオウイルスは存在しないので、ワクチン接種が遅れても問題になることはありません。新型インフルエンザワクチンのように、周囲に流行している状況とは違います。

 時期がずれても必ず接種できるので、あわてて飛びつかないようにしましょう。かかりつけの患者さんの分はしっかり確保しますので、安心して待っててください。

参 考
急性灰白髄炎:国立感染症研究所
ポリオとポリオワクチンの基礎知識:厚労省


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