かわむら こども クリニック NEWS  平成18年 9月号


リスクマネジメント ー家庭内事故を考えるー

 9月1日から30日までは防災月間ということを、皆さんは御存知でしょうか。9月1日のニュースには、あちこちで行われる防災訓練の模様が放送されます。7月31日にふじみ野市の市営プールで小学2年生の女子の死亡事故、シュレッダーによる指の切断事故など、悲惨な事故が後を絶ちません。事故は起ってから大きな社会問題になりますが、本来は防止対策が重要です。
 今月は、聞きなれないリスクマネジメントを考えてみます。リスクマネジメントを直訳すると、「危険管理」となります。何となくわかるような、わからないような言葉ですが、ここでは「予想外の出来事を防止するための取り組み」としておきましょう。
 今回のプールの事故に限らず、子どもたちの周囲には様々な危険が潜んでいます。以前も紹介しましたが、子どもの死亡原因では不慮の事故の割合が高いことが、大きな社会問題になっています。死亡まで至らないとしても、多くの子どもたちが被害を受けています。平成16年の人口動態統計(表1)でも、0歳児を除き、1〜14歳までの死亡原因の1位は不慮の事故となっています。また、0歳児では第2位ですが148人が命を落としているのです。
 不慮の事故には家庭内事故、交通事故、その他に分類されます。今回のような悲惨なプール事故や交通事故は、マスコミで数多く事件として報道されるため印象は強いのですが、実際に子どもでは家庭内の事故による死亡が多いのです。交通事故は社会的問題と認識され、様々な対応がされています。道路の整備、罰則の強化、チャイルドシートなどの安全対策、飲酒運転への啓蒙活動などにより、全年齢の死亡者は次第に減少し1万人を切るようになりました。逆に全年齢の家庭内事故による死亡者は減少傾向が見られず、子どもや老人を中心に1万人を越えています。0~4歳の不慮の事故(表2:平成15年人口動態統計)による死亡は282人で、家庭内事故213人、交通事故104人、その他65人と、家庭内事故が多いのが特徴です。家庭内事故は報道されないことが多く、対策が不十分であることが現状です。家庭内事故の内容は年齢によって異なりますが、窒息、溺水(溺死)、墜落などがあります。項目別にみた0〜14歳までの死亡数は、窒息469人、溺水193人、火炎ヘの暴露188人、転落127人(人口動態調査:3年間)となっています。家庭内事故の対策は社会的に確立されていず、対策は家庭に任されているのが現状です。
 家庭内の事故を防止するには、何をしたらいいのでしょうか。リスクマネジメントとは、先にも述べたように起ってから対応するものではありません。いかにして「起るべきはずの事故」を、未然に予防するかにつきます。まず大事なことは家庭内でどのような事故が起っているかを知ること、次に起っている事故に対する対応策を考え、実際に対策を講じることです。少なくても家庭内の事故で死亡する子どもは交通事故死より多いこと、窒息・溺水・火炎・墜落が大きな原因であることを、もう一度確認してください。実は当院でもリスクマネジメントを行なっています。医療機関でも小さな間違いやミスは起ります。間違いやミスが、患者さんに影響を与えるような大きな問題に発展しないための対策です。具体的にはミスを記録に残し、対応を考え、実行に移すというもので、リスクマネジメントノートを作成して事故防止対策を行なっています。もう一つ事故が起ってからの対応も重要です。そのような意味から、『お母さんクラブ』では毎年9月に「あなたは大丈夫 こどもの救急蘇生」も開催しています。
 誌面の都合で詳しい対策について触れませんが、覚えて欲しいことがあります。毎年多くのお子さんが家庭内の事故で亡くなっていること。事故防止のためにはリスクマネジメントが重要なことであり、どんな事故があるのかを知ることからはじめましょう。対策として「事故防止のためには子どもから目を離さないこと」と、どこにでも書いてあります。もちろん重要なことで疑う余地はありませんが、現実にはなかなか難しいことです。家庭内の事故は100%起りうるものと考え、対策を講じることが重要です。起ってから後悔するのが事故の特徴で、多くは保護者の責任が問われます。保護者はお子さんを失った悲しみだけでなく、自分を責めてしまうことも多々あります。保護者の責任を問うことは正しいことではありません。このような悲しい出来事を未然に防ぐことができるのが、事故防止なのです。リスクマネジメントの意識を持って、事故防止にもう一度注意を向けましょう。

1~4歳までの死因順位と死亡数(平成15年人口動態統計)
不慮の事故死亡総数と内訳(平成15年人口動態統計)

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