さて、インフルエンザは下火になってきましたが、陰に隠れて感染性胃腸炎の流行が続いています。小児の感染性胃腸炎の代表はノロウイルスとロタウイルスで、前者は秋から冬、後者は冬に流行します。流行状況ですが、昨年12月にはノロウイルスの大きな流行がみられましたが、今年に入ってからは減少傾向を示しています。またロタウイルスは2月から少しずつ増加傾向を示しています。一般的にはノロウイルスの方がロタウイルスに比べて、罹患者は多く、大きな流行になります。

　当院では東北大学微生物学分野と協力して、昨年11月からノロウイルスと今年2月からロタウイルスの迅速検査を行い、加えてウイルス分離を行っています。比較的重症の感染性胃腸炎78例（5ヶ月）で迅速検査を行い、陽性率は82%(ノロ:78%、ロタ:22%)でした。3月では21例のうち迅速検査陽性例は20例(95%)、内訳はノロ6例(30%)ロタ14例(70%)でした。（二面にグラフを示しました）

　ロタウイルス感染症予防を目的に、昨年秋からロタウイルスワクチン(以後ロタワクチン)が接種できるようになりました。今月は新しいワクチンについて考えてみましょう。

　ワクチン話の前に、感染性胃腸炎について整理をしておきましょう。ロタウイルス感染症は、ほとんどの子ども達が5歳までに1度は感染するありふれた病気です。もちろん症状には差があり、便が緩い程度から入院するほどの重症まで幅があります。乳幼児で重症化しやすく、日本では120万人/年が発病し、8万人近くが入院しています。世界に目を向けると1億人が罹患し、60万人が死亡していると推定されています。
　感染経路は糞口感染と呼ばれるもので、患者の吐物や下痢中のウイルスが口から入ることによります。便1gには10億個ものウイルスが排泄され、わずか10個が口から入れば発病するほどの強い感染力です。ウイルスは環境の中で安定なため、汚染された水・食物、汚染された環境(食器・ドアノブ等)を触った手からでも感染します。

　一般には乳幼児を中心として感染しますが、保育所・幼稚園だけでなく、家族内など成人でも集団発生することがあります。伝染力が強く環境で安定なため、集団感染を予防することが難しい病気のひとつです。

　潜伏期間は24~48時間で、症状は嘔吐と下痢と発熱です。ノロウイルス感染症と比べると重症のことが多く、下痢と嘔吐が激しいだけでなく、40°C以上の高熱を伴い、改善するまで4〜7日ほどかかります。下痢は米のとぎ汁のような便がみられ、白色便性下痢症とも呼ばれていました。軽症みえても、嘔吐や下痢が進行し脱水や痙攣を合併することもあり、点滴や入院が必要なことも少なくありません。治療は対症療法のみで、抗ウイルス剤などの直接的な治療はありません。

　ほとんどの子どもが罹患し、感染を防ぐことが難しく、重症化することがあり、治療法が無いのであれば、ワクチンによる予防以外に選択の余地はありません。ワクチンというと、誰でも副反応が心配になります。1998年に世界で初めて承認されたロタワクチンは、腸重積が1万接種に1人程度みられたため1年ほどで中止されました。以来ワクチンと腸重積の関係について議論が続けられています。腸重積はワクチンに関わらず発生し、発症率は生後半年を越えると高くなります。結局ワクチンと腸重積の関係はあきらかではありませんが、わずかながら増加させる可能性があるとの結論に落ち着いています。現在使用可能なワクチンはロタリックス?(GSK)で、2004年に承認され、導入した国では有効性が確認され、WHOでも小児の重要なワクチンとして位置づけています。病気に対する有効性以外に、別な側面をとらえる必要があります。子どもが病気になれば、親御さんの様々な負担が増えます。例えば、通院等の費用、時間的拘束、欠勤等の影響などです。任意接種なので自己負担となりますが、病気以外の経済的効果にも目を向ける必要があります。腸重積の発症という問題は残りますが、積極的に接種すべきワクチンのひとつと考えています。

　さらに、近日中にロタテック?(MSD)の発売が予定されています。両ワクチンとも経口生ワクチンなので、他のワクチンとの間隔を4週以上空けなければなりません。腸重積の発生は年齢とともに高くなることから、初回の接種は12週までに終了することを強く勧めたいと考えています。

　ロタワクチンの初回接種は8週(2ヶ月)に、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンとの同時接種で始めましょう。

　ワクチンで病気が予防できることは、素晴らしいことです。せっかくの与えられた機会ですから、チャンスを逃さないようにしたいものです。

2011.11〜2012.4感染性胃腸炎原因ウイルス

ロタウイルスワクチン・ヒブワクチン・小児用肺炎球菌ワクチン同時接種