かわむら こども クリニック NEWS  平成19年 3月号


タミフルは危険?安全?

 最近話題となっているインフルエンザの治療薬のタミフルについて、考えてみたいと思います。2月27日の福田町での男子中学生(14才)がタミフル服用後に11階から転落して死亡した事件は、地元ということもあり皆さんもよく御存知のことと思います。 タミフル服用後の異常行動による死亡例として、2004年2月岐阜県の男子高校生(17歳)が服用約3時間後、素足で家を飛び出し塀を乗り越えてトラックにはねられた事実がはじめて報告され、その後も2005年2月に愛知県の男子中学生(14歳)がマンションから転落死、2月16日には愛知県で女子中学生(14歳)が転落死しています。
 厚生労働省では昨年10月末までに、16歳以下のタミフル服用中の死亡を13例把握していますが、うち8例に関しては因果関係が否定されています。このような事態により、昨年厚労省の研究班がインフルエンザにおける異常行動の調査を行ないました。約3000例での解析ではタミフルの服用の有無にかかわらず異常行動の出現割合は1割強で、とくにタミフルで多い訳ではないと報告されています。また現在10,000人の調査も行なわれています。
 確かにインフルエンザによる異常行動は、当院でも経験しています。突然訳のわからないことを言い出すとか、異常に怖がる、意味不明の行動が見られたなど、保護者からの訴えは珍しくはありません。昔から高熱がでると、「熱にうなされる」、「あらぬことを口走る」などといわれていて、これらは脳の未熟な子どもたちが熱や病気の種類によって引き起こされるものと考えられていました。また脳の未熟な子どもたちでは夢遊病も時々見られ、夢遊病というほどでなくても寝ぼけてトイレ以外で排尿しようとするなども珍しくはありません。これらの異常行動は、確かにインフルエンザそのものも関係しているものと推測されています。
 それでは、タミフルは無関係なのでしょうか。その前にタミフルの有効性について考えてみたいと思います。タミフルがインフルエンザの治療薬として承認されたのは2000年で、小児用の顆粒が使用できるようになったのは2002年からです。タミフル等の抗インフルエンザ薬の登場により、インフルエンザの治療が劇的に変わったのは紛れも無い事実です。抗インフルエンザ薬以前は、発熱に対しての解熱剤、咳や鼻水の薬などの対症療法のみでした。インフルエンザの発熱は39〜41℃が2〜3日持続し5日以上続く場合もあります。しばしば発熱が長期にわたり治療に難渋した経験があります。しかし、タミフル使用後は約半数が1日で解熱、2日目には80%が解熱するとされています。インフルエンザは多くの合併症が見られるのも特徴ですが、合併症の頻度も減少させ、とくに老人では肺炎による死亡が減少するという報告もあります。少なくともタミフルは有効性が認められた薬ということになります。それではタミフルと異常行動について考えてみましょう。インフルエンザは昔からある病ですが、異常行動のために事故が起ったということは聞いたことがありません。病気そのものでは異常行動があるにもかかわらず、事故が起っていないということは、たまたま話題にならなかっただけなのか、それとも起っていなかったかどうかは残念ながら不明です。しかし、3年間で4人の痛ましい事故が起っているのは事実です。となれば、何らかの関係があると考えるのが妥当だと思います。
 もちろん厚労省の判断では、現在のところ因果関係が無いとされています。しかし自分としては、因果関係が無いとしても否定ができない以上、リスク(危険性)を少なくすることが望ましいと考えています。当院ではタミフルの有効性と危険性を考えて、お子さんの状況に合わせて処方を行ないたいと思います。服用に関して不安、要望等がある場合は、遠慮なくお尋ねください。
 厚労省からの通知がありましたので紹介します。タミフルの服用の有無にかかわらず、次のことに十分注意をしてください。
  1)異常行動が起る可能性があることを十分理解してください。
  2)少なくとも2日間はお子さんが一人にならないよう配慮してください。

 最後に、以前も家庭内事故のことで、リスクマネージメントについて考えてみました。様々な状況において、リスクを少なくすることはとても大事なことだと思っています。

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