かわむら こども クリニック NEWS  平成22年 2月号


新しいワクチンについて

 最近新しいワクチンが認可され、予防接種の選択の範囲が増えました。今回は、これらの新しいワクチンについて、考えてみたいと思います。
 最近と言っても1年以上前になりますが、皆さんがよくご存知のワクチンとしては、Hibワクチンがあります。Hibというのは、ヘモフィルスインフルエンザb型菌です。Hibについては、以前記事(平成20年5月号)にしたので、今回は詳しい説明は避けます。Hibは小児の細菌性髄膜炎の原因菌の一つですが、特徴が次に挙げる肺炎球菌と同様なので、以下の項目を参考にしてください。  もう一つ髄膜炎の原因菌として重要な菌が、肺炎球菌です。肺炎球菌というのは、その名が示すように元来肺炎で見つかる菌の一つです。もちろん肺炎だけでなく、中耳炎や敗血症、細菌性髄膜炎等を引き起こします。重症で命や後遺症が問題となる子どもの細菌性髄膜炎では、Hibが約60%、肺炎球菌が約30%で、両者で約90%を占めています。Hibと肺炎球菌は、よく似た特徴があります。両者とも健康な子どもの喉に常在菌として、存在しているのです。保菌しているからといって、普段の健康な状態では、特に症状はありません。しかし、カゼをきっかけに体力や免疫力が低下すると、体内へ侵入して病気を起こしてしまいます。ここで問題となるのは、保菌率です。ある研究データでは、保育園で集団生活をしている乳児では保育期間に比例して保菌率が高くなり、短期間のうちにほぼ100%見られるという報告があります。保菌しているということは、誰でも感染を引き起こす可能性があるということです。次いで問題となるのは、細菌の構造です。Hibも肺炎球菌も、莢膜(きょうまく)という殻を持っているのが特徴です。細菌が体に入ると、細菌を殺して体を守るためのいろいろな反応が起こります。体を守る反応には、白血球(好中球)が直接菌を取り込んで退治するもの、抗体と呼ばれる免疫によって排除されるものがあります。しかし、莢膜を持つ細菌では、好中球が取り込んで退治することができません。出生直後では母体から移行した抗体があるために感染が起こりにくい状況ですが、時間とともに抗体が減少し半年後には消失してしまいます。抗体の減少する3ヶ月から2才ぐらいまでの間は、髄膜炎のような重症感染症が引き起こされやすくなる時期です。5才を過ぎる頃になると細菌の暴露(接すること)により、抗体を獲得していくことになります。免疫が減少してくる時期に、ワクチンによって抗体を獲得することができれば、重症な感染症を予防できることになります。この肺炎球菌ワクチン(プレベナー)は平成21年10月に認可され、平成22年2月24日に発売予定です。接種時期と回数は、Hibと同じようになります。
 皆さんは子宮頚がんという病気をご存知ですか。この記事を読んでいるひとの多くは、女性なので関心のある病気だと思います。この病気の原因が、ウイルスであることを知っている人は少ないかも知れません。日本では約15,000人が毎年子宮頚がんと診断され、2,500人もの命を奪う病気なのです。がんというと高齢者の病気と思われがちですが、20〜40才の若い世代ではがん死亡の第2位となっているのです。この子宮頚がんの原因のほとんどが、 HPV(ヒトパピローマウイルス)によるものと考えられています。このウイルスは、性交によって伝播し、約80%の女性が生涯に一度は感染するとされています。もちろん感染した女性が、全員子宮頚がんになるのではなく、そのうちの1,000人に1人が、がんに進行といわれています。つまり、HPVの感染を防ぐことができれば、子宮頚がんを減少させることが出来るのです。子宮頚がんの死亡を減少させるための有効な手だての一つはがん検診ですが、日本での受診率は先進国でも最低です。この検診率を上げること以外の予防法は、HPVワクチンになる訳です。性交によって伝播するウイルスなので、ワクチンの接種時期はセクシャルデビューする前の11〜14才が推奨されています。このように書くと、まるで性病のようなイメージを持つ人がいますが、正しい認識ではありません。HPVによる感染は、非常にありふれた感染で、特に性のモラルとは必ずしも関係しないものなのです。子宮頚がんは女性であれば、誰でも罹患する可能性がある病ですが、ワクチンで予防できる病気の一つです。このHPVワクチン(サーバリックス:3回接種)は平成21年10月に認可され、平成21年12月22日に発売されました。セクシャルデビュー前の接種が効果的ですが、既に性交経験のある女性(これを読んでいるお母さん方)でも効果は期待できることも覚えておいてほしいことです。
 病気がワクチンで予防できるというのは、素晴らしいことです。しかし、HIbも含め、接種料金が大きな壁になっています。この少子化の時代に、子どもを大切にすることを訴え続けなければなりません。患者の会や小児科医の活動によってワクチンの重要性が認識され、Hibワクチンでは既に自治体の補助を受けることができる地域があります。また、現在待合室で「細菌性髄膜炎関連ワクチンの定期接種を求める請願署名」(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会)をお願いしています。このような取組みによって、子ども全員が必要なワクチンを受けるような日が来ることを願っています。皆さんも、ご是非協力をお願い致します。


院内掲示「予防接種案内」




月刊ママゴン記事:豊橋市育児情報誌(株)プランズ
ヒブワクチンについて 2010年 2・3月号
子宮頚がん予防ワクチン 2010年 4月号
肺炎球菌ワクチン 2010年 5月号

update 04/19/2010


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